中国の不動産事情からみる経済の実態と自動車販売

 林立する高層ビルと数字で語られる経済成長率。一見すると絶好調なのだが、極めて不自然な点も多くある。本論の自動車から見ていこう。
 中国の通貨は元。09年時点でのレートは1元が約14円である。中国は地域格差が大きいのだが、おしなべて言うと、高給取りの月収は2000元程度だそうだ。それに対し、アテンザクラスの車両価格は約20万元程度。安い車でも5万元。年収の2〜10倍近い車が、日本で売れる車の台数(約600万台/年)の倍以上が売れてしまうのである。とても信じがたいが事実だ。年収1000万円の日本人が、1000万円の車を普通買うか?? 2000万円の車を買うなんて相当勇気がいる。
 確かに高度成長期にあった日本でも同じような現象はあった。「三種の神器」、「新三種の神器」のように収入の増加・技術の進歩という段階を踏んで徐々に購入してきた。しかし中国の場合は全部がいきなりなのだ。車もパソコンも携帯も。おまけに家までも。

 不自然な点はまだある。林立する高層ビル。しかし、空室率が100%近いビル、新築なのに誰も住んでいない新築のマンション、建設途中で放棄されたとしか思えないビルがたくさん建っている。



 例えばこのビル。この都市で最も立地条件の良いところに立っているが、入居率は0%。ウソかホントか知らないが、噂によると伊勢丹が入る予定だったそうだ。




 このビル、一見すると完成しているように見えるが、1階部分を見てみると矢印のような看板が立っている。看板の裏はなぜかガレキの山。さらによくみると、ビルの1階部分が看板で閉鎖されている。入居できない構造になっている。




 一方、ホテル正面のビルは完成しており、1階部分も閉鎖されていないのだが、人が入っている気配がない。




 建物自体は完全に完成しているはずなのだが、上から見るとガレキが転がっている。このビル自体は10年前からあるらしい。が、この有様だ。




 どうりで入居率が0%なわけである。極一部の都市を除き、こんなビルやマンションがたくさん建っているのが中国だ。

 「中国ではバブルが発生しかかっている」という報道がなされることがあるが、経済ど素人の私からみると、人類がまだ経験したことがないバブルが既に発生しているように見える。日本のバブルも、リーマンショックの発端となったアメリカの住宅バブルも、確かに家やマンションが売れた。ここまでは中国と同じ。しかし決定的に異なるのは、入居者の有無である。入居率0%なんてあり得ない。中国の経済状態・成長率を一言で評すと、「成績トップの営業マンがいるとして、その実態は使いもしない自社製品を自腹で大量に購入し続けているから成績がいつもトップ」といったところではないだろうか。
 なぜこんなことになるかというと、最大の理由は経済成長率の高さを見越した先行投資だろう。つまり、値段が上がったところで売り抜けるという作戦である。ここで自動車の販売と結びつけると、中国国家の販売促進策に加え、買った住宅を担保に入れてカネを借り車を買ったと容易に想像される。住宅を担保にいれるやり方は日本もアメリカも同じ。そうでもしないと、年収の10倍の車なんて買えない。
 もうお気づきの通り、このパターンがうまく回っているうちはいい。が、成長率が落ちたら総崩れとなってしまう。先行投資で購入した入居率0%の物件が、景気が悪くなって売れるとは思えない。しかもゴロゴロあるのだから買い手自体がいない。調子ぶっこいていた中国経済は急降下である。リーマンショック以上のインパクトがあるのではないだろうか。
 さらに危険だと思われるのは、この異常事態を異常と感じない先進諸国の人間の多さである。現地駐在の日本人に中国経済のあまりに不自然な点を列挙すると「言われてみれば確かにそうだ、どうしてなんだろう」とみんな言う。長期間住んでいると中国の人と同様に感覚が麻痺してしまうようなのだ。「中国ではバブルが発生しかかっている」という報道は、麻痺してしまった人間が報道しているのではないだろうかと思わざるを得ない。
 自動車なら現時点で普及率は10%だそうだ。人口と年齢構成を考えるとその潜在的需要は未だかつて無いレベル(2010年時点で30〜40歳代の人口が約5億人に登る)にあるのは間違いないのだが、ごく一部の人を除くと給料は依然として安い。共産党一党支配のため、ストでもおこして給料を上げるという手が使えるとも思えないし、給料が上がると「世界の工場」としての役目が果たせなくなるため食いっぱぐれる。何かあると大ゴケしそうな感がある。なぜ中国の人は車を購入し維持できるのか、さらなる仕組みについては後のレポートで記そう。


 あとは余談となるが、よく中国の大気環境は悪いという報道がなされ、スモッグが発生しているようなどんよりとした影像が流れることがある。上の写真でも100mも離れていないのに霞がかかったような写真になっている。が、これは排ガスが影響しているわけではない。特段排ガス臭いといった状況ではないので、黄砂か何かの粉塵が舞っているのではないかと思われる。
 下の写真は別の都市での日の出の様子。連日、太陽の形がはっきり分かるほど空気がよどんでいた。数十メートル先も霞がかかっているような状況だ。が、不思議なことに月ははっきり見えたりする。いったいどういう大気環境なのかよくわからなかった。なお写真に写っている高層ビルも、入居率0%だった。




 次頁からは中国の自動車史について簡単に触れたい。