FISCO担当弁護士に訊く


 私もいろいろ手広くやっている関係上、FISCO担当弁護士と話せるコネがある。もともと太田裁判を調べている過程で、FISCO担当弁護士は誰で連絡先もつかんでいたのだが、「負けた裁判について話を聞かせろ」といきなり事務所を訪ねるのもなんなので、コネを使って徐々に徐々に切り込んでいった。夜の8時から面会するという約束だったのだが、前の会議が長引いて、始まったのが夜の10時。事前にいろいろと質問項目を送付していたのだが、1問当たりの回答が非常に長かったので、要点だけ矢継ぎ早に質問した。
 なお、東京地裁の民事判事とも多少なりともコネもあるので、この裁判の判決を下した裁判官とも話ができるかどうか聞いてもらったのだが、どうも既に東京地裁から異動になったらしく実現不能。ボツ企画となってしまった。残念。
 本来なら太田選手側の弁護士とも話しをして双方の主張を聞くべきだが、後述の理由によりあまり意味がないと考えられるため優先順位を下げている。


 FISCO側担当弁護士より、守秘義務に反しない範囲で話を伺った。

まずはバックグラウンドから・・・しかし、私の色センスが悪く、けばけばしいQ&Aになっている^^;。


Q.そもそもなぜFISCOより弁護の依頼があったのか?
FISCOから依頼が来たというより、被告の1つである日本モーターレーシングセンターの顧問弁護士をやっていた関係で、この件を担当することとなった。被告中村という表現が判決文中に出てくるが、彼とも昔から面識がある。

Q.今までモータースポーツ関係でどんな事案を扱ったか
SUGOでの事故の裁判などを担当した。
市川注:モータースポーツがらみの裁判は、結構手がけている印象を持った

Q.相手の弁護士はどんな人か
日弁連の会長選に2回立候補して、2回落ちた人。共産党の人間で、交通事故専門の弁護士である。
市川注:自由主義社会においては共産党の言い分など聞く価値は低い。聞いても合理的な説明ではなく被害者としての立場を主張するいつものパターンであろう。よって太田選手側の弁護士と話をするのは優先順位を下げている。なお実際に裁判所へ行って口頭弁論などを見てもらえばわかるが、原告側の言い分が赤がかっている印象を受けた謎がとけた

Q.なぜ高裁に上がったときに担当を降りた?
地裁判決直前になって日本モーターレーシングセンターが倒産したため。途中放棄したくなかったのだが。



いよいよ本論。

Q.アマチュアのモータースポーツやOFF会で、下記判決の反対解釈は成立するか。つまり、経済的な利益を取得しなければ、誓約書は有効か。

自動車レースによって経済的な利益を取得しながら、一方でレースに参加するドライバーに対し、上記内容の誓約書の差入れを義務付けているのであって、自動車レースはドライバーがいなくては興行として成立しない以上 同誓約書の効力を文字どおり認めた場合には、主催者は、ドライバーの安全への配慮を故意又は過失によって怠り、その結果、重大な結果を伴う事故が生じた場合でも、経済的利益は取得しつつ、一切責任は負わないという結果を容認することになり、これが著しく不当、不公平であることは明らかである。本件誓約書のうち、主催者らの故意・過失にかかわらず損害賠償を請求できないとの部分は、レース参加希望者に一方的に不利益を課すものであり、社会的相当性を欠き公序良俗に反し無効というべきである。
有効である。
市川注:モータースポーツは相互免責の上に成立するという考えの人なので、その点は割り引いて考える必要がある。しかし割り引いたとしても、実際にこの裁判に深く関与した人の判断であることには間違いないので、相当の信頼性はあるものと考えられる。なお、この判断は絶対に正しいものではない。最終的には裁判所が判断する。ここに書かれていることを鵜呑みにして裁判を起こして負けても、私は一切関知しない ← こういった免責事項がないと、何も進まないのが分かっていただけるだろうか

Q.経済的利益を取得するとは、どの程度の売り上げを示すものと考えられるか。
不明。ただし、売り上げ1000万でも経費が1000万ほどかかり収支とんとんなら、一方的に経済的利益を取得するとは見なされないと思う。よってこの場合でも反対解釈は成立する。

Q.今現在、多くの走行会などでH項を遵守せず、今回の裁判で問題となった誓約書と同様のものを使い回ししている(Tipoオーバーヒートミーティングを例に説明した)。こういう走行会をどう思うか。
誓約書がないよりまし。「あ、Tipoだ。証拠として何回も出てきたよ、これ。」とは弁護士さんの言葉。
市川注:よかったね、Tipo。感謝しろ、Tipo(余計なお世話か)。私の当初予測では「証拠として裁判所にTipoが残っている状況(=主催者Tipoは走行会の危険性と安全確保の不十分性を認識していることになる)で主催するなんて、何考えてんだ」という怒りの返答があるのかと思ったのだが、あっさりした回答で拍子抜けした。

Q.同じような裁判を起こされないようにするには、どのような防衛手段が考えられるか。
「重過失については責任を取る。その他の軽過失については相互免責とする」という一文を誓約書にいれればよいのではないか。そうすると一方的な条件とはならないため。すくなくとも今回の裁判で、今までのような誓約書では逃げ切れなくなった(プロの場合)。
市川注:この話を元にして作った誓約書(案)については後述。



裁判全般について

Q.原告には労災認定がおりなかったのか。賠償金さえ出れば済む話なので、認定がおりれば敗訴しても賠償金額が減った可能性もあるが。
労災に関する事項は1つも取り上げられなかった。論点にも上がらなかった。
市川注:労災を楯にするという作戦は、公判時に全く考えていなかったとのことだった。「自分が考えつかなかった切り口を聞いてきた」と感じたらしく、この質問を機に以降のやりとりが盛り上がった。

Q.被告の証言中に「誓約書の内容が気に入らないのなら来るな」との旨の発言があり、それが裁判官の心証を悪くしたため裁判が不利に動いたとの話があるが、事実か。
そのような事実はない。ただし、こちらの主張としては、そのようなストーリーにしないと成立しなかった面はある。

Q.裁判官が実際にFISCOまで出向いたと聞くが事実か。
事実だ。1日かけて検証した。通常裁判所はそこまでやらないのだが。

Q.裁判官には法律論のみで裁く者と、社会的正義も加味して裁く者がいると聞くが、FISCOまで検証しに行ったとなると、この裁判官は後者か。
いや、そうでもない。ただテレビとかのメディアで取り上げられたため、裁判所も動かざるを得なかったのだろう。

Q.ぶっちゃけた話、敗因は何か。
内助の功が大きい。原告の妻が美人で、さらに毎回熱心にやってくるので、法廷内で異彩を放っていた。「美人の、いわば遺族代表(太田選手は生きています)」となると、勝敗に影響を与えたことは間違いない。裁判所は否定するだろうが。
市川注:こんな言い訳をするとも思えないので、率直な感想なのだろう。

Q.高裁で和解したのは、トヨタがFISCOの筆頭株主になったことも影響しているか
当然影響していると思う。こんなゴタゴタは引きずりたくないはずだ。

Q.公判を通じ、原告が裁判を起こした真意が読みとれるか。単に損害賠償を請求するためのものだったのか、それとも裁判を通じて問題提起しようとしたものなのか。
当初から、「安全を確保するレース」ということで問題提起しようとしていた。
市川注:そうブチ上げたものの、あまりの難題ゆえ、主体的に取り組んで解決しようとしているようには、私には見えない。

Q.原告をどう思ったか。要領を得ない話が多いので、困ったのでは?
面白い男だった。普通は弁護士に対しては「○○先生」と呼ぶのに、「○○さん」だった。

Q.判決が出た後、ジャーナリストからの取材はあったか。
テレビ局からはあった。

Q.自動車雑誌からは?
なかった。
市川注:これが一番腹立たしい。同じジャーナリズムなのに、テレビ局と自動車雑誌でどうしてこうも対応が異なるのか。テレビ局がこの裁判に注目した理由は、テレビ局が本事件の当事者として訴えられたためである。同様に自動車雑誌も走行会等を主催する以上当事者となりうるはずだし、車を扱っている以上テレビ局よりも当事者に近い存在である。私のような素人でさえもが当事者意識をもって行動せねばならないほど重要な話なのに、ほとんど動かない。モータージャーナリズムは死んでしまったのか。実に情けない。
 といいつつ動かない理由は分かっている。こんなこと書いても本の売り上げに結びつかないためだ。読者レベルに合わせた結果である。ということは、レベルアップしない読者にも問題があるのだ。そこで当HPでは、真の自動車趣味を行う人々を対象として各人のレベルアップに必要と思われる種々の情報・話題を取り上げ、課題を解決していく(売り上げ高なんか関係ないもんね)。興味ある分野・ない分野と各人いろいろあると思うが、当HPで取り上げていることも一つの議題として、とにかく自助努力・勉強して欲しい。
 頭じゃわかっているものの、こんなことがなぜプロに出来ないのだろう。



 さて、話を雑談に戻そう。この弁護士事務所の入っているビル(2006年早々に解体予定)には、一部の関係者間では有名な吉野正三郎弁護士の事務所もあったりして正直驚いた。私が質問した人ははボス弁、すなわち弁護士事務所のトップである。ここの事務所はイソ弁(居候弁護士)を二人やとっていた。そのうち一人がお茶を出してくれたのだが、某Wセミナーで髪型と名前を変えて司法試験の講師をやっている人によく似ていた。
「ひょっとして○○先生では?」と尋ねると、「他人のそら似というやつです。よく間違えられます。」と返答され、そそくさと引っ込んでしまった。ボス弁にバレるとまずいことを聞いてしまったらしい(正規の仕事以外にバイトをやってるため)。←それにしても法曹関係者・司法試験関係の受験生をやったこともないのに、なんでこんな事情まで知ってなきゃならんのだ(俺)。