損害


 ここは本来、前頁の原告の主張に入る部分だが、サーキット走行で事故を起こすとどれだけ悲惨かつ大変なことになるのか明確化するため、あえて別項として述べる。なおここでいう損害についてはあくまでも原告が申告した金額であり、申告金額から過失相殺して、主文にある支払い金額が算出される。
 これを見て走るのが恐ろしくなりサーキット走行をやめようと思ったなら、それは賢明な判断だと思う。臆病者だと誰も言わないだろう。しかしこれを読んでかつ、走ることの覚悟・明確な目的・主義・スタンスも無いのにまだ走ろうというものは、愚か者として非難されるべきだろう。



 キ 損害
  (ア) 治療費関係 四六六万四八八六円
  (1) 入院治療費 三二一万○八二〇円
 原告は、平成一〇年五月三日から平成一二年一月五日にかけて、八回、通算一七六日間入院した。
  (2) 通院治療費  三七万一九四四円
 原告は、平成一二年七月六日から平成一二年一月五日にかけて、通算一二三日間通院した。
  (3) 薬代、マッサージ治療代、器具購入費         七八万○八四一円
  (4) 個室使用料 三〇九万七〇一〇円熱傷治療の場合、細菌感染の危険などがあることから、個室での入院が必要となる。
  (5) 高額療養費支給による控除マイナス二七九万五七二九円
高額治療費として、上記金員が還付されたため、損害から控除する。

 (イ) 添看護費  三〇五万五八〇七円
 (1) 入院時の付添看護費用二八万九三一一円
 (2) 自宅における家政婦費用二七六万六四九六円

  (ウ) 入院雑費   二二万八八〇〇円
 一日あたり一三〇〇円の入院雑費がかかり、入院日数は一七六日問である。

  (エ) 通院交通費     一三〇万円

  (1) ガソリン代      三〇万円
 原告入院中、原告の妻が自動車で通院したため、そのガソリン代が損害となる。
  (2) 駐車料金      一〇〇万円
 原告の妻が原告の入院先の病院に自動車で通院した際の駐車料金

  (オ) 家屋改造費、調度品購人費一四万五〇〇〇円
  (1) 手すり改造費  三万五〇〇〇円
  (2) ソファーベッド購入費 一一万円

  (カ) スポンサー料返還  二五〇万円
 原告は、株式会社アイ・オートより、平成一〇年に開催される全日本GT選手権全七戦に参加するとの条件のもと、スポンサー料として五〇〇万円の支払いを受けたが、本件事故により全レースに出場できなくなったため、同会社よりスポンサー料の返還を請求する訴訟を提起された。結局、原告は、和解により、同会社に対し、二五○万円を支払ったが、これは本件事故により支出せざるを得なくなったものであり、本件事故による損害である。

  (キ) 航空券代金   五万四八〇〇円
 熱傷によく効く薬を福岡市の医院に購入しに行った際の旅費

  (ク) 休業損害 二一三五万四二〇〇円
 原告は、レーサーとして活躍するものであり、乗車手当、自動車専門雑誌の原稿料収入、レーシングスクール講師料などの収入があるが、形式上、原告を代表者とする株式会社オータレーシングの売り上げとして計上し、そこから原告が給料をもらう形となっている。同社の売り上げは、年平均○○○○万円であり、諸経費三〇パーセントを控除した○○○○万円が原告の年収である。
 原告は、本件事故直後から入通院を繰り返したが、下記のような後遺症が残ったところ、その症状固定日は平成一二年一月五日である。
 そこで、本件事故後、症状固定時までの休業損害は二一三五万四二〇〇円である。

  (ケ) 逸失利益
        一億八七六一万三八七七円
 原告の後遺障害は、第五級相当と評価でき、その労働能力喪失率は七九パーセントに相当する。
 しかし、鼻の障害のためにレース中の激しい呼吸に耐えられず、肘や肩に可動域制限があるため確実なハンドル操作ができず、右足の障害のために素早いぺダル操作ができないなど、顔面・上肢・手指・足の合計八か所に第七ないし第一〇級に該当する障害が後遺障害として残り、原告は、もはやプロフェッショナルのレーサーとして稼働することは不可能であるから、その労働能力喪失率は一〇〇パーセントというほかはない。
 原告の症状固定時の年齢は四〇歳であって、就労可能年数は二七年であり、これに対応するライプニッツ係数は一四・六四三であるから、逸失利益は一億八七六一万三八七七円となる。

  (コ) 慰謝料      一六七六万円
  (1) 入通院慰謝料    二七六万円
  (2) 後遺症慰謝料   一四〇〇万円

  (サ) 競技車両についての物損
         三三七二万五三三五円
 原告が本件事故時乗車していたフェラーリ三五五GTは、浅見掌吉から無償で提供されたものであり、その当時の車両価格は一二〇〇万円であった。
 原告は、その後二一七二万五三三五円の費用をかけてレースカーに改造し、上記競技車両の所有権を取得した。
 本件競技車両は、本件事故により大破し使用不能となったから、上記金員合計が原告の損害となる。

  (シ) 弁護士費用    二七一四万円

  (ス) 以上、原告の損害は合計二億九八五四万二七〇五円である。