東京地裁の判断:損害


 原告の請求した金額に対し、裁判所の下した判断で、賠償すべき金額を全額認定する。かなりの丼勘定ぶりに驚かされる。
 教訓:領収書はちゃんととっておこう。

 なおここで示された金額を賠償するのではなく、次頁に記す過失相殺で減額された金額を賠償する。



八 損害
 (1) 治療費関係  四五四万三九二六円
 ア 人院治療費  三二一万○八二〇円
 上記証拠によれば、原告は、平成一〇年五月三日から平成一二年一月五日にかけて、八回、通算一七六日間入院したことが認められる。

 イ 通院治療費   三七万一九四四円
 上記証拠によれば、原告は、平成一〇年七月六日から平成一二年一月五日にかけて、通算一二三日間通院したことが認められる。

 ウ 薬代、マッサージ治療代、器具購入費        六五万九八八一円
 前提事実及び〈証拠略〉によれば、原告の熱傷は重症であり、足のマッサージ、薬の服用等が必要であると認められるが、朝鮮人参の購入代金一二万○九六〇円は、購入の必要性に疑問があり、被告らが賠償すべき損害とはいえない。

 エ 個室使用料  三〇九万七〇一〇円
 〈証拠略〉によれば、熱傷の治療の場合、細菌感染のおそれがあるから、個室の使用が相当であると認められるから、全額が損害となる。

 オ 高額医療費支給による控除
       控除額二七九万五七二九円

 (2) 付添看護   三〇五万五八〇七円
 ア 入院時の付添看護費用
           二八万九三一一円
 〈証拠略〉によれば、医師の指示により、夜間に職業付添人が看護したものであり、全額が損害となる。
 イ 自宅における家政婦費用
          二七六万六四九六円
 〈証拠略〉によれば、原告の妻花子は、原告の度重なる入通院に付き添い、自動車で送迎していたところ、これに相当程度の時間を要したこと、原告には平成一〇年七月当時六歳と二歳になる子供がいること、原告の妻による原告の付添費用等は請求していないことからすると、上記全額が損害となる。

(3) 入院雑費    二二万八八〇〇円
   (一日当たり一三〇〇円、入院日数一七六日。)

(4) 通院交通費       四〇万円
 ア ガソリン代       一〇万円
原告は、原告の自宅と入院先の距離を約二〇キロメートル、一リットル当たりの走行距離を四キロメートル、ガソリン代金を一二〇円として、一日のガソリン料金を六○○円、一か月当たり二五日通院しているとして、一か月当たり一万五〇〇〇円、平成一〇年五月から同一一年一二月分までの二〇か月分を請求しているところ、原告の傷害の程度から、通院交通費としてのガソリン代支出の必要性は認められるものの、入院先の距離、一リットル当たりの走行距離、ガソリン代金を的確に認定するに足りる証拠はなく、一〇万円をもって被告らが賠償すべき損害と認める。
 イ 駐車料金        三〇万円
 上記(2)イのとおり、原告の妻花子は、原告の入通院に付き添うため自動車を使用し、有料駐車場に駐車したものと認められるけれども、原告主張の一時間当たりの駐車料金三〇〇円、駐車時間が一日当たり一二時間を下らないことを認めるに足りる証拠はなく、三〇万円をもって被告らが賠償すべき損害と認める。

 (5) 家屋改造費、調度品購入費
            三万五〇〇〇円
 ソファーべツド一一万円につき、これを支出したと認めるに足りる証拠はなく、手すりの改造費三万五〇〇〇円のみを損害と認める。

 (6) スポンサー料返還   二五〇万円
 上記金員は、原告が、株式会社アイ・オートより、平成一〇年に開催される全日本GT選手権全七戦に参加するとの条件のもと、スポンサー料として五〇〇万円を受け取ったが、本件事故により、第三戦以降のレースに参加できなくなったため、同社からスポンサー料の返還を求めて提訴され、訴訟上の和解に基づき同社に対し二五〇万円を支払わざるを得なくなったものであるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

 (7) 航空券代金(五万四八〇〇円一については、原告は、東京都に在住し、都内の病院で入通院治療を受けているところ、家族が福岡市まで赴いて熱傷の薬を購入することがやむを得ないとまでは認められない。したがって、その旅費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

 (8) 休業損害  一五二五万三〇一一円
 ア 前提事実及び〈証拠略〉によれば、原告の症状については、前提事実のとおり、障害固定日を平成一一年一二月三一日と推定する平成一一年四月二一日作成の身体障害者診断書・意見書があり、肢体不自由の状況は上記診断書記載の症状から変化なく今後も改善の見込みがないとする証明書があること、原告は、本件事故後、平成一二年一月五日までの二〇か月間、八回にわたり入退院を繰り返し、全く稼働できなかったこと、原告は、レーサーとして乗車手当、カー雑誌への原稿寄稿による原稿収入、レーシングスクールでの講師料等の収入があったが、その収入を原告を代表者とする株式会社オータレーシングの売上として計上し、そこから取締役の報酬として支給を受ける形をとっていたこと、同社は、原告の自宅を本店とし、株主は原告と妻花子(←仮名、なおこんなセンスのない仮名は私がつけたものではない)、有限会社オータ企画(出資額はそれぞれ四五〇万円、四五〇万円、一〇〇万円)であること、株式会社オータレーシングの平成七年から平成九年までの売上げは年平均○○○○万円であること、上記期間に同社が原告及び妻花子(仮名)に支払った報酬は年平均○○○万円であること、同社の経常損失は年平均一四万九二五八円であることが認められる。

 イ 原告の後遺障害については、上記のような診断書等が存在するものの、平成一○年五月三日から平成一二年一月五日にかけて八回にわたり入院し、この間熱傷治療及びリハビリに務めていたことからすると、最後の入院の退院時一平成一二年一月五日一をもって症状が固定したと認めるのが相当である。したがって、原告の休業期間は二〇か月となる。

 ウ 上記認定によれば、株式会社オータレーシングの営業活動は原告のレーサーとしての活動に他ならず、同社は原告の特殊技能であるレーサーとしての活動によってほぼすべての収益を上げていたものであるから、原告は、実質的には個人事業者と同様とみて差し支えない。そこで、同社の経費から、事業維持のため支出を余儀なくされた固定経費を控除し、その残額を同社の売上高から控除した額を原告の基礎収入とする。
 原告は、売上げから控除すべき諸経費を三割とし、原告の収入額を○○○○万円と主張するが、同社の経費(販売費及び一般管理費)の内容及び同社の営業内容自体が原告のレーサーとしての活動である以上、原告の休業中に同社が支出を余儀なくされる固定経費はそれほど多くないと解されることなどを考慮すると、同社の経費から上記固定経費を控除した残額を売上げの五割とみるのが相当である。よって、原告の基礎収入は年○○○万円となる。
 したがって、休業損害は一五二五万三〇一一円となる。

 (9) 逸失利益  八五七一万一六九七円
 ア 原告は、前提事実の後遺障害に加え、両眼の裸眼視力が○・○一以下に低下し、顔面部各部に瘢痕拘縮・ケロイドを残置するなど、後遺障害別等級表第七級に相当する後遺障害が一つと、同第九級以下に相当する後遺障害が多数あること、原告は大学卒業後、レーサーとしての道に入ったこと、原告は本件事故当時四〇歳であったこと、プロのレーサーには極めて高い身体能力が要求され、特に心肺能力や筋力、敏捷性が重要であることが認められる。

 イ 原告の事故当時の年齢及びプロのレーサーに要求される資質等を総合考慮すると、原告は、本件事故に遭遇しなければ、少なくとも四五歳まではレーサーとして本件事故当時の収入を得ることができたと認めるのが相当である。
 原告は、レーサーとしての収入は高齢でも確保され、現に本件レースにも五八歳のレーサーが参加していたとして、六七歳までレーサーとしての収入を基礎とすることを主張するが、レーサーのように体力や瞬時の判断力を重要な要素とする職業にあっては、事故当時の収入が事故後も恒常的に継続すると推測するのは相当でなく、高齢のレーサーの平均収入や平均退職年齢等を認めるに足りる証拠もないから、原告の上記主張を採用することはできない。

 ウ 症状固定後から四五歳までの逸失利益の算定
 上記後遺障害により、原告は、素早いハンドル操作、適格なぺダルの踏み替え等などができず、今後、プロのレーサーとして稼働することは極めて困難である。もっとも、原告は、懸命なリハビリにより、本人尋問の時点において草レースに出場できるまでに回復していること、今後もレーサーとしての経験を生かして執筆活動等が可能であること、原告の後遺障害の内容・程度等を総合考慮すると、原告の労働能力喪失率六七パーセント(後遺障害の併合により後遺障害別等級表第六級該当)と認めるのが相当である。
 原告は、本件事故がなければ、レーサーとして年○○○万円の収入を得られたものといえ、四五歳までの労働能力喪失期間は五年間であるから、ライプニッツ方式一係数四・三二九四一による中間利息を控除して現価を求めると、二六五四万六六二八円となる。
 計算式略

 エ 四五歳から六七歳まで
 原告は大学卒業であるから当裁判所に顕著な平成一三年賃金センサスの産業計・企業規模計・男子労働者・大卒四五〜四九歳の者の平均年収八五六万二一〇〇円を基礎とし、労働能力喪失率六七パーセント、労働能力喪失期間を二二年とし、ライプニッツ方式(二七年の係数一四・六四三〇‐五年の係数四・三二九四=一〇・三一三六一による中間利息を控除して現価を求めると、五九一六万五〇六九円となる。
 計算式略

 (10) 慰謝料       一六七六万円
 ア 入通院慰謝料     二七六万円
 前提事実記載の原告の傷害内容、入通院日数、その他本件に現れた一切の事情を斜酌すると、原告の入通院慰謝料は、二七六万円が相当である。
 イ 後遺症慰謝料    一四〇〇万円
 原告の後遺障害の内容・程度、原告がレーサーとして国内外で活躍し、成功を収めていたところ、本件事故によりプロのレーサーとしての道を断たれることになったなど、本件に現れた一切の事情を斟酌すると、後遺症慰謝料は一四〇〇万円が相当である。

 (11) 競技車両についての物損
              一〇〇〇万円
 〈証拠略〉によれば、原告車はフェラーリF三五五GTで、平成八年末ころに、浅見掌吉から原告に対し無償で提供されたものであること、平成一〇年式フェラーりF三五五GTSの新車価格が一六一〇万円であること、原告は、合計二一七二万五三兵五円の車両改造費をかけて、レースに適合させるため改造を加えたこと、本件事故により原告車は大破し、使用不能となったこと、原告が原告車を提供された当時の車両価格は、車両の型式や類似車両の価格等を考慮すると少なくとも八〇〇万円を下らないことが認められ、本件車両がレース専用に改造を施され、一般的な市場流通性に乏しいこと、改造時からの時間の経過などの事情に照らせば、車両価格及び車両改造費の合計額のうち一〇〇〇万円をもって車両損害と認めるのが相当である。
 以上(1)ないし(11)の損害の合計額は、一億三八四八万八二四一円となる。



 東京地裁の判断した日本のトップレーサーの所得(給料)をみて、レーサーとは名誉職であると改めて知った。はっきり言って、普通にリーマンやっている方が儲かる。我々がプロ野球選手とかJリーグ選手、F1のドライバーがもらう契約金からは想像できない金額であった。
 厳しい言い方だが、名誉職であるならば名誉を重んじ、潔く名誉の負傷・名誉ある死を受け入れるきだろう。「勝利」「名声」という名誉を得るために、ヘルメット・レーシングスーツ・ロールバーとシートベルトだけのようなほぼ丸腰といっていい状態で走るのだから。これはアマチュアのモータースポーツにも共通する。