原告・被告双方の主張および契約書

 ここで、原告・被告双方の主張および契約書を転載する。なお双方の主張は判決要旨のように一般には公開されていないため、わざわざアホみたいに東京地裁まで出向いて、裁判記録から書き写したものである。そのため原本とは若干異なる部分(誤字・句読点の位置、判決文に存在する明らかな誤字部分とか)がある。ちなみに受付の人はこの裁判のことを良く知っていた。

 なお契約書の部分もまた、古屋氏の多大なご協力のもとhttp://www.r-style.to/980503/より転載させていただいた。


契約書

この参加誓約書は、1998年に実際に使われた物を再現した物です。
書き込み欄などを省略していますが、本文は原本そのままです。




1998年度全日本GT選手権シリース
参 加 誓 約 書
AGREEMENT ON ENTRY


大会組織委員会 御中

私達は本シリーズ、各大会特別規則並びに国際スポーツ法典、同付則及び国内競技規則の規定に同意致します。
また競技参加にあたり関連して起こった死亡・負傷・その他の事故で私達参加者及びドライバー・ピット要員及び車両等の受けた損害について、決して主催者及び競技役員・係員・雇用者(コース所有者を含む)・他の競技者(エントラント・ドライバー・ピット要員等)、並びにGTアソシエイションに対して非難したり責任を追及したり、また損害の賠償を要求したりしないことを誓約致します。
このことは事故が主催者または大会関係役員の手違いなどに起因した場合であっても変わりはありません。
また、ドライバーは参加レースについてしかるべき適格の競技許可証の所有者であり、参加車両についてもコースまたはスピードに対して適格であり、かつ競走が可能であることを誓います。
また大会を対価を得て公開し、及びテレビ・ラジオ、映画、写真、録音等の対象にすることはすべて私共及び大会主催者が加入するGTアソシエイションの権限の下にあることを承認致します。
なお、私達の過失で当該レース場の所有にかかる施設機材、車両等に損害を与えた時は、その損害について弁償致します。
また、私達は本シリーズ各大会に参加するに当たり、別紙の通りすでにレースに有効な保険に加入していることを申告致します。


参 加 申 込 者

エントラント名

代 表 者 署 名

ドライバー署名

 

該 当 サ ー キ ッ ト
(参加大会に捺印)

 





被告の主張
 高度の運転技術、能力、経験を有するものが自己の意志で高度な生命身体の危険を伴う自動車競技に参加した以上、その競技中に発生した事故に基づく損害については自己責任の原則が妥当し、自動車競技に参加する者は原則として法的手段により他人に対し責任追及を行わない反面、他人からの法的責任の追及からも免責される。原告は本件契約書に署名して大会組織委員会に提出したことにより、主催者・競技長その他レース関係者に対する損害賠償請求権を事前に放棄したものであるから、原告の本訴請求は訴権を欠く不適当な訴えとして却下を免れないか、少なくとも請求権を欠くことが自明の請求として棄却されるべきである。


原告の反論
 自動車競技中に発生した事故に基づく損害の一切について主催者らにいかなる細微不履行や過失があろうと一切の事情を捨象して絶対的に主催者らが無答責であるとの自己責任原則は、市民社会の規律とはならない。また本件の場合、レースに参加したいと考えるものは故意または過失のある場合も含めて主催者や競技長らに対する責任を追求しない旨の文章のある誓約書に署名することが一律かつ問答無用に求められ、そこには自由な意志に基づく合意は明らかに存在しない。従って本件契約書の無答責条項はこのような一方的な力関係の下で押しつけられた条項であって、民法90条ないし信義別にてらし効力が認められる余地はない。