アニメの話

 ヤマト、ガンダム、エバ・・・日本のアニメを語る上ではなくてはならない存在だが、ここでは全く脚光が当たらないものの革命的な事態を実は引き起こしていたというアニメを紹介したい。それが「装甲騎兵ボトムズ」というリアルロボットものである。このアニメは1983年作なのだが、登場するロボット(AT)の作動原理が実に合理的かつ実戦的であるため、24年もの間ATを超える兵器用ロボットが出てきていないといっても過言ではない。ATのギミックは、ガルウイング乗りの我々を魅了してくれるに違いない。マイナーな作品故に大きめのレンタルビデオ屋に行かないと目にすることはないし、ストーリーはというと自分探しの旅みたいなものだから大して面白くはないのだが、ATの動きだけをみて喜んで欲しい。詳細はウィキペディアを参照(Wikipedia 装甲騎兵ボトムズ)。

 なぜリアルかというと、現有技術の延長線で出来そうだと錯覚させてくれる機能とデザインが満載されているためである。このことをいくら言葉で説明しても伝えられないので、リンク先を見ていただこう。無骨なスタイル、リベット・ビス留めされて作られた機体。どうみても未来の話に出てくるような形をしていない。リンク先の中盤以降ではATのフィギュアと現実世界の写真を合成したデジラマが掲載されているが、実に違和感がない。合成した作者がうまいのか、ATのデザインが素晴らしいのか、私が贔屓目なのかはわからないが・・・  ただし、ガンダムのように「ミノフスキー粒子によってレーダーが使えなくなったので有視界接近戦用兵器が必要となりモビルスーツができた」というような人型兵器存在の必然性を語る設定のない点が、欠点といえば欠点である。


 この作品には、異端とか異能とかいう言葉がよく出てくる。まさにAZ−1にぴったりではないか。では本作品の異端ぶりを紹介していこう。

 まずタイトル。今までの日本のアニメに無いタイトルなのである。「装甲騎兵ボトムズ」というタイトルをガンダムに例えるならば、「機動戦士モビルスーツ」になるのだ。変でしょ。通常のロボットものの場合、タイトルには主人公が操縦もしくは搭乗するロボットの名前が付けられる。が、ボトムズは違った。ボトムズとはVertical One-man Tank for Offence & Maneuver(攻撃と機動のための直立一人乗り戦車)の複数形の略で、いわばシステムの名前なのである。

 システムの名前がタイトルに付いたことが示すように、主人公が特定のロボットに乗らない点も本作品が初である。アムロはガンダムばかりにのっているが、ボトムズでの主人公であるキリコは特定のロボット(以下AT)に乗ることはなく基本的に使い捨て。ATに乗る場面のある話では、必ずといっていいほど壊して使い物にならなくし、次の回では別のATを調達・補充して乗る。道具と割り切り、使い捨てにする点がリアル感を増している。

 ATとはアーマード・トルーパー(装甲騎兵)の略称であり、ロボットを略称で呼んだのは本作品が初である。略称とした結果、一般的にありふれた道具というイメージが強くなった。本作品以降、ロボットを略称で呼ぶものが多くなった。

 女性キャラがほとんど出ない点も珍しい。主立った女性キャラはたったの二人しか出ない。それゆえボトムズを「漢(おとこ)のアニメ」と表現されることもある。後に発売されたOVA「野望のルーツ」では女性キャラがついに一人も出なかった。ひたすら男だけ。驚異である。

 主題歌の中に、ロボットや主人公の名前、作品のタイトルが出なかった。これもロボットアニメ史上初。クレジットでは歌手の名が「TETSU」となっているが、これは無名時代の織田哲朗である。ちなみにエンディングの「いつもあなたが」が好きな人は、伝説巨神イデオンのエンディング「コスモスに君と」も好きであるという不思議な経験則がある。

 パイロットスーツだが、ヘルメットまで被ってしまうと誰がだれだか分からなくなる点もロボットアニメ初。キャラが判別できなくなるのはTV的に大問題であるため前例がない。

 世界初、正座ができる機械的構造を持ったロボットがATなのである。これは降着と呼ばれる、パイロットが乗り降りするときにとるポーズである。また着地する際のアブソーバーとしてもこのギミックが使用される。AT のパラシュート降下部隊が着地するシーンは、ガルウイングのギミックが好きな人は絶対に感動する。実際にモノをつくると重心のバランスがとれず前に倒れてしまうだろうが、機械的構造上正座を可能にしたという功績は極めて大きい。

 ATは小さい。全長(全高)は4m程度であり、現在でも最も小さい部類に入る。4mという長さは車の全長と同じ程度である。休戦を迎え、ロボットが道ばたをゴロゴロできる大きさはどの位か?ということで車の全長に合わせたのだそうだ。4mだったら電線に引っかかることなく道を移動できる。引っかかりそうになったら降着して移動すればいい。公国払い下げの中古ザクが道を歩いたら、そこらじゅう停電になるだろう。
 実生活に密着したロボットものには機動警察パトレイバーが良く知られるが、レイバーの全高はおおむね8〜9mと設定されているので、電線にひっかかってしまう。この点について作者は設定が完了した後で気が付いたのか、連載では結構気を使って絵を描いていると思われる箇所が見られる。

 原寸大ATを作った人がいる。

 ロボットアニメなのに、ロボットに乗らない主人公を書いた作品があった(OVAのメロウリンク)。審判が主人公になった野球マンガやボクシングマンガが想像できるだろうか。

 主人公はなぜ死なないかを納得できる理屈で説明したのも本作品が初であろう。不死身の理由を説明した作品は過去に何点かあったが、キャプテンスカーレットのようにわけのわからん理屈を唱えるものばかりであった。

 異端の中でも一番強烈なのが、14年の月日を破って07年夏に新作のOVAがリリースされる点だ。通常ならこれだけ時間が経ったら立ち消えになるはずである。



 「足なんて飾りです。エライ人(←スポンサーのおもちゃ会社)にはそれがわからんのです」と嘆いて足をつけたのがガンダムなら、嘆くことなく説得し玩具として成立しないようなデザインのATを中心として独自の世界観を強行したのがボトムズであったといえよう。最初に述べたとおりストーリー自体は大して面白くないのだが、多くの初物にトライした心意気とメカのギミックは一見の価値ありだ。本編を見た上でOVAを見たら、本編では謎であった部分が解き明かされるので楽しめると思う。ああ、なんか池田憲章みたいになってしまった(笑)。