理系人間に捧げる、こだわりの一品選択方法論、時計

 理系人間は感性の世界に弱い。デザインのことはよく分からない。が、分からないものを数値化して分かるようにすることこそ、理系人間のすることでもある。
 私は長年、自分の身につけるものの購買判断基準定量化について取り組んできた結果、1つの結論にたどり着いた。今回の企画にかこつけて紹介したい。なお文系の人、既に自分なりのスタンスを持っている人には全く関係のないものである。当然ながらこの結論が絶対正しいわけでもないし、万能でもない。実際この方法ではネクタイの柄等を選ぶことはできない。将来変化することも十分考えられる。ただ判断基準を持たない悩める理系人間の参考になれば幸いである。なぜ判断基準が必要かというと、この手の品には自分なりの基準をもっておかないとコレクションに際限が無くなり、家がつぶれてしまうためだ。
この手の分野を当HPで言及するのは、これが最初で最後だと思う。




結論

こだわりの一品の購買判断基準は



  偽物を作ることが限りなく困難な機械的構造をもつものであること。 


 である。あとサブの概念として、現在は盲腸のように機能を発揮しないものを、かたくなに機能させているもの、という基準もある。


 世の中、本物志向だ何だと言われるが、偽物をつかまされる・偽物がまかり通っているものを持つなど本物志向以前の問題である。そのため偽物が出回らないことにこだわりたい。偽物を作ることが限りなく困難な機械的構造とは何か。それは特許により守られた構造であり、独自の機構を持つ構造である。偽物作りに特許侵害もへったくれもないが、独自の機構を持つものは偽物が作りにくい。ありふれた流用品を使う手段で偽物を安く作れないからである。
 デザインという面でみると、独自の機構を持つことで、「遠くから見ても他とは違う」、「近くでみるとその精密さに驚かされる」という意匠性に結びつく。また、デザインのわからない理系の人間が「機械的構造」という自らの得意領域を判断基準にもってくることで、あまり迷うことなく優れた意匠にたどりつけるというメリットもある。


 判断基準をもっと具体的に書こう。例えばダイヤがちりばめられている高級品があるとしよう。これは私の購買判断基準からはずれる。ダイヤの装飾はガラス玉に置き換え可能な機械的構造を有しているからである。色や柄の凝ったセルロイド製万年筆もNG。ABS樹脂に色や柄を転写するだけで偽物が作れる機械的構造を持っているからだ。ちゃんと手書き・手彫りだったとしても、遠くからみてそれが偽物か本物か判断できないようではだめだ。



 では私の持っているモノを例にとって、上述の判断基準を見ていこう。

 下の写真の時計は、シチズンの「カンパノラ ミニッツリピーター」と呼ばれる腕時計である。一見するだけで、どの時計とも全く異なるデザインをしていることがわかる。カンパノラというネームは、世界で初めて時報を打ったというベル(カンパノラベル)に由来している。流通経路も極めて限られており、中国地方5県の中では広島市にある2店舗と福山市にある1店舗でしか売られていない。ロレックス等とは違い、ディスカウントストアに出回らないようになっていることもポイント高し。


 ポイントとなる「偽物を作ることが限りなく困難な機械的構造」だが、レギュレータータイプと呼ばれる、時針と分針が別になっている点だ。レギュレータータイプの時計はほとんど存在しないので、この時点で偽物を作ることは事実上不可能である。
 ところでこの時計、何日何曜日何時何分何秒を示しているか分かるだろうか。答えは、19日の日曜8時46分52秒である。みんな、どの針がどこをさすか当ててみよう。画面左下にも小さな時計があるが、これはサブの時計でアメリカの東部標準時に合わせてある。その右にある針はサブ時計の午前午後を示すもので、現在18時46分であることがわかる。





 カンパノラは遠くから見ても他とは決定的に異なるとわかるし、接写してもよく作り込んでいることがわかる。時針からは放射状の彫り物が、各針の中心には渦巻き模様が彫られている。彫り物は陰影を産みだし、見る角度(光の方向)によって時計の表情が常に変わっていく。最も特徴的なのは矢印で示してある金色の日針で、針の途中に「お日様」が彫られ、針自体も真っ直ぐなものではなく、途中でうねらせてある。お日様の中には穴があいており、その直径は0.5mm強ほど。これだけのものを作ることがどれだけ大変か、理系の人間にとっては実にわかりやすい。まさに遠くからみて違いが分かり、近くでみるとその精密さに驚かされる構造を持った時計だといえる。
 余談だが、こういう小物はビジネスを進める上で役に立つ。休憩時間などで談笑する際の格好のネタとなるのだ。事をスムーズに運ぶためのきっかけにできるので、それなりのものは身につけておきたい。





 この時計の欠点は、自分でも何時何分かよくわからなくなる点である(爆死)。だが独自性の高いデザインとアラーム付き(アラーム音は電子音ではなく、時計内部に仕込まれた鐘を叩くことで発生する高低2音)を兼ね備えたものを探し求めて、20年近くの月日を費やしてしまった。ごちゃごちゃしていて趣味が悪いとは言わないでね。ちなみにもっと普通っぽいデザインの時計では、ブライトリングのナビタイマー・ワールドが好き。厳つい系だとグラハムのクロノファイターが好き(持ってないけど)。


 さて、時計はピンからキリまであるが、高級時計の簡単な見分け方について紹介しよう。時計の高い安いは、ワイン当て並みに難しい。意匠性を極限まで追求した結果、誰にでも真似の出来るデザインとなる場合が多々あるからだ。
 これから紹介する方法は、大振りの時計にしか通用しない。特にガラスが湾曲しているタイプに有効である一方、小振りもしくは薄さを追求する時計には全く役に立たない方法である。



この手の時計に有効



 それは、時計の文字盤を斜めから見る方法。高級品は相当斜めから見ても文字が歪まないが、安物はすぐに歪んでしまい文字が読めなくなる。1m離れても判別出来るやりかたなので、電車に乗ったとき他の人の時計を見てみよう。