コンロッドメタルのEPMA観察

 先ほどのSEM観察で、黒いところと白いところがみえた。これらの物質は何かを調べるため、EPMA(いーぴーえむえー)という装置で分析を行った。EPMAとはElectron Probe Micro Analyzerの略であり、映し出される物質の拡大象のどの部分にどんな元素がどのくらい存在するかを調べることのできる装置である。EPMAにはSEMの機能もついている。じゃあ最初からEPMAで分析しろよという話になるのだが、装置自体の価格がSEMより1桁高く5000万円くらいするため装置の賃貸費用が高いので、まずはSEMであたりをつけて、あとからEPMAで観察する事にならざるを得ない。


EPMAの装置本体


 白い部分と黒い部分の存在する領域をEPMAでみた。EPMAでもやはり白と黒に分かれている。矢印で示した部分が、黒い部分だ。




 次に黒い部分が何なのか分析した。付着していたのはアルミニウムであった。下の写真で白い点々が写っているが、その部分にアルミが存在する。上の写真と視野は同じであるため重ね合わせるとよく分かるが、確かに上の写真で黒く写っている部分に下の写真の白い点々が集中しており、その部分がアルミであることがわかる。なお、白い点1つがアルミの粒子1つを示しているのではない。正確に言うと、白い点の多さはアルミの存在確立の高さを表している。




黒い部分のEPMAによる組成分析結果
アルミスズケイ素その他
56.6%20.6%11.2%9.8%1.8%




 では白い部分にはいったい何が付いているのか。それは鉛、タングステン、スズ、インジウムであった。コンロッドメタルの表面には鉛がコートしてあるのだ。なんでこんなものがついているかというと、鉛は柔らかいので、鉄と接触する部分に丁度いいのだろう。

白い部分のEPMAによる組成分析結果
タングステンスズインジウムその他
89.3%3.2%2.2%1.2%4.1%


 前頁でのSEM分析の結果、黒く写っている部分はなめらかであった。この原因は、どこからかやって来た柔らかい金属であるアルミが、さらに柔らかい鉛の中に埋没しクランクシャフトの回転によって研磨され、なめらかになったためではないかと思われる。鉛がはげて地金の鉄が出てきたのではない。ではアルミはどこからやってきたのか。ピストンなのか・・・結論からいうと、クランクシャフトのメタルと考えられる。このあたりについては、次回分析していく。


黒い部分のSEM写真。なめらかだ。



 以上の結果、コンロッドメタルはクリアランス的には問題ないものの、表面状態はよろしくない可能性が高い。このメタルは16万5千キロ走ったものだが、タイミングベルト交換時に、ついでに(といえるほど安くないが)メタルの交換もしたほうが良さそうなことが改めて分かった。
 次回はクランクシャフトのメタルやロッカーアームのSEM観察、シリンダーブロックの筒内観察を行う。