判決全文(争点7のみ)
本企画で最も重要となる「争点7,契約書の効力」について、判決全文を掲載する。これで、前回紹介した判決要旨でははっきりしなかった自動車趣味に適応された場合どうなるかが明確化できればいいのだが・・・
契約書の効力について
前提事実及び証拠(乙A3及び原告本人)によれば、原告は本件レースに参加する際、競技参加に関連して起こった事故について、決して主催者らに損害賠償を請求しないことを誓約し、このことは事故が主催者または大会関係役員の手違いなどに起因した場合でも変わらない旨の記載のある本件誓約書に署名し、大会組織委員会に差し入れたこと、同誓約書を提出しない限り、ドライバーとして競技会に参加できないことが認められる。しかし、主催者らは自動車レースによって経済的な利益を取得しながら、一方でレースに参加するドライバーに対し上記内容の誓約書の差し入れを義務づけているのであって、自動車レースはドライバーがいなくては興行として成立しない以上、同誓約書の効力を文字通り認めた場合は、主催者はドライバーの安全への配慮を故意または過失によって怠り、その結果重大な結果を伴う事故が生じた場合でも経済的利益は取得しつつ一切責任を負わないと言う結果を容認することとなり、これが著しく不当不公平であることは明らかである。このように自動車レースに参加するために提出を義務づけられ、これを提出しない限り自動車レースに参加できないという性質の本契約書は、主催者らが参加者を本契約書の提出、不提出によってレースへの参加を選別できるという意味において、レース参加希望者のレース参加の自由を不当に制約し、主催者らの一方的優位を背景にレース参加希望者に提出を義務づけた文書というべきであるから、本契約の内、主催者らの故意過失に関わらず損害賠償を請求できないとの部分は、レース参加希望者に一方的に不利益を請求するものであり、社会的相当性を欠き公序良俗に反し無効というべきである。
被告らは本件誓約書に関して、レース参加者の事故責任を強調し、原告らは本訴請求につながる実体法上の請求権を事前に放棄したなどと主張する。もとより自動車レースは参加するドライバーの生命・身体に対する危険を伴うことは自明の事柄であるから、同誓約書を提出して参加するドライバーは、かかる危険自体は承知していると判断すべきである。しかしかかる危険を承知して上記誓約書を提出してレースに参加するドライバーは、主催者らのコース設定、先導車による適切な先導及び適時適切な消火救護等に対する信頼を前提に主催者らの無過失・不可抗力による事故の発生について自己責任を認識しているに過ぎないというべきであって、これをこえて主催者ら協議関係者の故意・過失に基づいて発生した事故についてまで、レースに参加するドライバーにおいて損害賠償請求権を放棄する意志を有しているとみなし、その放棄の効力をそのまま認めることが相当でないことは上記判示の通りであるから、被告らの自己責任の主張はその限度で失当である。
以上によれば原告が本件誓約書に署名して大会組織委員会に提出したことによって損害賠償請求権を事前に放棄したとして、原告の本訴を不適当な訴えとして却下を求め、あるいは本訴請求の棄却を求める被告の主張はいずれも理由がない。