つまらなく見える趣味は廃れる
こういうタイトルをつけるということは、今の自動車趣味はつまらなく見えると言いたいわけである。では誰から見るとつまらなく見えるというのか。それは旧車・稀少車・趣味の車をになう次の世代の有能な人たちからだ。彼らが関心を示してくれなければ後継者はいなくなるわけで、自動車趣味は間違いなく廃れる。
ではなぜ次の世代の人からみると今の自動車趣味はつまらなく見えてしまうのか。それには、年功序列崩壊後の能力別賃金体系に関係があったりするのだ。突拍子もない話だが、ここまで次元の違う話を結びつけて語るのが面白い。
最近企業の多くが年功序列的な賃金体系から能力別賃金体系へと変えている。能力別と書くと「仕事をこなしていい結果が出れば給料が上がる」という風に捕らえられがちだが実は全く違う。管理職の立場から突き詰めていくと、能力別賃金体系とは徹底した計画管理の世界なのだ。この徹底した計画管理の中で育った次の世代の人たちから見ると、今の自動車趣味は実につまらなく見えるはずだ。それどころか異常にさえ見えるだろう。なぜなら何のビジョンも目標も目的も計画性もない上に、自動車とは関連性の低いことばかりやっているためだ。
次に、能力別賃金体系とは徹底した計画管理であることを述べよう。能力別賃金体系を導入したそもそもの理由は、成果を出している人に対し公正に報いるようにしたいという思いからだ。では「成果」が出ている・出ていないはどのようにして判断するのだろうか。この判断基準が曖昧で、成果を出していない人の給料が上がってしまえば元の木阿弥である。実はこの判断基準こそが計画なのだ。計画を上回るか下回るか、また立てた目標が困難なものか容易なものか、仕事自体が担当する人の能力にあったものなのかそうでないのか等の諸々の条件によって基準が決まってくる。高い目標を立てて計画通りに進まなかったら給料は下がる。これじゃああまりにむごいので、もし目標が達成されなくてもフォローできるような逃げ道を作っておいたり、担当する人の能力にあった、さらに仕事を通じて担当する人の能力が伸びるように綿密に計画を考えたり、周囲の状況変化によって臨機応変に計画や目標を変更したりする必要がある。
とまあ話が長くなってしまったが、徹底した計画管理の中で育ち、計画性とか目標とかビジョンとかを明確にした上で、それらを着実に実行していくよう鍛えられた次の世代の人たちから現在の自動車趣味を見ると、実につまらなく見えとても興味を持つことは出来ないだろう。このままでは自動車趣味の将来は非常に暗い。
ではつまらなく見える趣味は本当に廃れるのだろうか。実例を挙げよう。それはアマチュア無線。かつて「King of Hobby」の名を欲しいままにした趣味であったが、今急速な勢いで廃れている。現在のアマチュア無線局数は、最盛期の約半分までに落ち込んでしまった。しかも徐々に落ちていったのではない。戦後にアマチュア無線が再開されてから50年間右肩上がりで増えていったものが、ここ10年で半減したのだ。
ここまで廃れた最大の原因は、携帯電話の普及である。これにより「便利無線」の意味がなくなり急減少した。そして次の原因はアマチュア無線による通信が「つまらなく見える」ことにある。どうしてつまらなく見えるかを説明しよう。アマチュア無線の楽しみ方の中に、海外と交信するというものがある。海外は遠いため、電波がとどかないことが多い。そのため現在はどうやっているかというと(全てではないが)、まずはインターネットで海外のアマチュア無線局とコンタクトし、その後電波を出して電波が海外まで届いているかどうかをインターネットで確認しあう。ここで頭の中を真っ白にして考えてみると、インターネットで海外の人と確実にコミュニケーションがとれているのだから、わざわざ無線でコミュニケーションを取る必要など全くないのである。しかも設備投資的にどちらが安いかというと、パソコンが1台あればいいインターネットの方だ。試験を受けてアマチュア無線免許を取得後、面倒な手続きを踏んで開局し、高い無線機を買い、大きなアンテナをたてても交信できるかどうかわからない不安定な無線に固執する必要など全くない。冷静に考えると、現在のアマチュア無線のやっていることは実につまらない。

インターネットでコンタクトできているのに、わざわざ無線でコンタクトを図ろうとする。
趣味の姿勢としては正しいが、普通の人からみるとアホらしい以外の何者でもない。
以上のような理由から、アマチュア無線は急速な勢いで廃れている。現在の大学のアマチュア無線部はどこも部員確保に苦しみ、私の在籍していた無線部も遂に廃部となった。今年の夏はアンテナ降ろしの手伝いに行く予定だ。残念ながら、昔は無線部の主力だった電気・電子系の学生でさえ、既にアマチュア無線には興味がないのだ。
だがここで、アマチュア無線家の名誉のために一言書いておく。彼らはなんの努力もなしにただ廃れていったのではない。インターネットが出来る前(日本ではjunet)、有線回線と無線を接続しようと努力していた。しかし結局できなかった、法的な問題のために・・・結局は廃れてしまったとはいえ、常に新しいものに挑戦しようとしてきたアマチュア無線と、自動車とは関連のないもしくは意味のないマンネリイベントを繰り返して堕落しきった現在の自動車趣味とは大きな違いがある。
以上のことをふまえて我らが自動車趣味に目を向けてみると、これがアマチュア無線どころの騒ぎではない。なんとスポーツカータイプ、平たく言えば2ドア車(一部3ドアハッチを含む)の新車登録台数は、10年前と比較してわずか10%にまで落ち込んでしまったのだ。減少の理由を今までの話の流れから説明すると、「同じ税金を払っていながら人も乗れない荷物も積めない2ドア車を買うのはアホらしいと多くの人が考え始めたから」となる。確かにその通りだ。2ドア車は旧車・稀少車・趣味の車の代表選手。乗り手どころか将来旧車となる車さえもが少なくなってきているとは、自動車趣味は危機的状況と言うしかない。