ノスタルジックカー関係で法律相談??

 会場の一角に、こんな物があった。交通事故の相談でもするのだろうか??



 恐らく、車関係に詳しい弁護士の人が担当しているのだろう。それを期待して、急遽「太田裁判」についての見解を聞いてみた。太田裁判とは、富士スピードウエイで事故を起こし、多額の損害賠償請求のあった事案であり、最終的に約1億円で和解した裁判である。この裁判の争点の1つとなったのが「誓約書の有効性」。走行会などに出走す際、「事故しても主催者は一切責任を負わない」というような紙にサインした方も大勢いると思うが、それが有効か無効かが争われたのである。

 弁護士さんがたまたま持っていたiPadで、太田裁判の判決全文を見ていただき、見解を聞いてみた。当裁判については「重要判例百選」にも掲載されたことがあるのだが、この弁護士さんはそのことを認識していなかった=今回初めてこの裁判の事を知ったのである。が、さすがは弁護士さん。10万字ある全文を5分程度で斜め読みするだけで、ポイントを見切ってしまった!! 無料法律相談の機会があるときは、太田裁判について相談するのだが、今までで最速だった。

 この弁護士さんの見解では、裁判所の判決は理にかなっているということだった。つまり、「主催者がカネを儲けているのに、主催者側に一方的に有利な(=何があっても主催者には責任はない)といった誓約書は無効だ」とのことだった。

 話によると、近年類似した裁判がよく行われているとのこと。それはツアー会社主催の山岳事故。もし事故が起こった時、ツアー会社が訴えられる事例に似ているのだそうだ。この場合も誓約書は無効との判決が出るとのこと。ただし、誓約書はないよりあった方がいいそうだ。
 どういうことかというと・・・例えば野球をやっていてボールが当たって怪我をした程度だったら主催者を訴えても怪我した側は勝てない。当然予期されることだからだそうだ。一方、雷雨の中で野球を続けて落雷にあい死亡したというようなことが発生したら、主催者側が負けるのだそうだ。適切な判断を怠ったためとの理由である。無効な誓約書とは言え、あったらあったでこんな判決になるとのこと。
 なるほど。太田裁判の判例が、こんなところまで波及しているんだ・・・



 ここで私が痛恨のミス。我々に直結する問題は、「主催鞘側が一方的な利益を得ていない場合=会場費程度の実費を参加者に負担してもらうような事例の場合、どのような判決が下されるか?」という質問をし忘れたのである。せっかくのチャンスだったのに、失敗したなあ・・・

 ちなみに、太田裁判の場合、労災保険をかけていなかったと思われるため、主催者側を訴えた。「太田裁判」とは、自賠責も任意保険もかけずに自爆事故を起こし、「事故したのは、こんなところに電柱を立てているからだ」と電力会社を訴えているような裁判にしか、個人的には見えない。
 では仮に労災保険に入ったとしたらどうなったかを聞いてみたところ・・・
1.レーサーは労災保険に入れるかどうかはわからない。個人タクシーの運転手は「一人親方制度」によって加入が義務づけられているが、これは別の法律により加入することになっている。レーサーが労災保険に入らなければならないような仕組みとなる別の法律は存在しないのではないか。
2.仮に労災保険に入らなければならないとした場合、保険料は高くなる。つまりレーサー側の手取りは少なくなるのでメリットはない。
3.仮にレーサーが事故を起こし、労災保険が下りることで、レーサーが主催者を訴えることは無くなったとしても、保険会社が主催者を訴えることになる。どのみち裁判は避けられない。
 とのことだった。「そもそも、レーサーって、職業なの?」と逆に質問を受けた。
 上記1に関しては、「オータ企画」という会社が存在した上で、社長兼社員としてレーサーの活動していたのだから、事業者として労災保険に入るのは当然だろうと考えている。が、2と3は確かにその通りだ。レーサー家業って、リスクが高いだけで本当に儲からないなあと思ってしまう。



 太田裁判により、冒険の扉をあける側・そして冒険をする側ともにメリットの無い、もしくは何をやるにもリスクがあるということがはっきりしてしまった。線引きができたこはいいかもしれないが、こんなんじゃあ誰も何もしようとしない萎縮した社会が生まれるだけだ。結果的に、愚かな裁判であったと改めて感じた次第である。勝訴した側は、萎縮した社会を打破するような新たな仕組み作りを考え実践して欲しい。そうしないと、(いかなる後遺症が残ろうとも)一方的に損害賠償金を得ただけの勝ち逃げに近い。

 明らかに想定できるリスクに対して備えのない人間が、事故が起こしてしまった後でもめ返し、(結果的に)社会を萎縮させみんな何もできなくなってしまうような仕組みを設定してしまうことに、私は反対の立場である。例としてあげた山岳事故のように、車とは全く関係の無いところにまで波及している可能性があるとなるとなおさらである。太田裁判に関しては機会があれば今後何度も紹介し、警鐘を鳴らしていきたい。自動車趣味の根幹に関わる問題だからである。