「環境に優しい車」は必ずしも環境に優しくない

 今回メインで行われたレースは、ソーラーカーレース。環境問題がクローズアップされはじめた影響か、家族連れ、特に小さい子供がギャラリーに目立った。小さいころから環境問題に興味を示すことはいいことなのかもしれないが、「環境に優しい車」は本当にそうだ、と鵜呑みにしてしまう危険性もある。夢も大切だが現実も認識しておかないと、将来適切な判断が下せなくなる。これは放っておくわけにはいけない(電波少年か、おまえは)。

 今回のレースではソーラーカーが出ていたが、このソーラーカーに近い車で「環境に優しい車」といえば、やはり電気自動車と言うことになるだろう。排気ガスを出さないで走る電気自動車は、一見「環境に優しい車」に見える。しかし、電気を作っているのは火力発電によるところが大なので、結局は排気ガスを出しているのだ。さらに電気の送電効率、充電するときの充電効率、充電した後の自己放電、モーターの効率を考え合わせると、ガソリン車の方が「環境に優しい車」だったりする。またそれを証明したドイツの論文さえあるという。

 さらに最近出てきた車、そしてモーターショーでも各社がその技術力を誇示するために展示に最も力を入れるであろう「ガソリン筒内噴射エンジン(以下GDIと略,GDIは三菱自動車の商標)」がある。効率が良くなった分、二酸化炭素の排出量が減って環境に優しいというのが売りなのだが、これは発展途上国並みの甘い日本の排気ガス規制の中でのみ成立する話で、世界レベルで見た排気ガス規制から評価するならば、全く逆にとんでもない公害エンジンとなる(とはいえ日本国内で売られていることに関しては、法律を満足しているので非難される筋合いはない)。何が問題かというと、酸性雨の原因となる窒素酸化物が多いのだ。通常のガソリンエンジンではこの窒素酸化物は触媒コンバーターによって世界レベルでみた規制値に適合できるよう窒素に還元することが可能なのだが、GDIは排気ガスの組成が特殊なので通常の触媒ではほとんど不可能。そこでGDIはそれ専用の触媒を持つことになるわけだが、各社発表の触媒の構造から予想される性能(浄化性能、耐熱性、耐硫黄被毒性)では世界レベルの規制に適合させるなどとても無理なのだ。現在2社が量産しているが、大々的に輸出していないのが何よりの証拠といえよう。ただしGDIとしてのメリットである低燃費を最大限削る(普通のエンジンに近づける)か、リコールを覚悟すれば輸出は可能と思われる。「21世紀のエンジン」という位置づけで各社宣伝しているが、排気ガス規制の動向から考えると、飛躍的な技術の進歩もしくはGDI専用の排気ガス規制値でも作られない限り、2005年、早ければ2000年以降は日本国内と一部の国と地域以外には存在し得ないだろう。

 低公害車は他にもいろいろあるのだが、意外な面で問題があることが多い。上述の電気自動車では、走行音が小さすぎて後ろから車が近づいてくることが分からない点にも問題があるし、電気スタンド関係のインフラ、バッテリーの充電時間等問題点は山積している。アルコール自動車は、出火したとき炎が見えない(アルコールには酸素が含まれているので煤が出にくい)点が一番の問題とされている。このように見ていくと、通常のガソリンエンジン車はいろいろなニーズを満たしている合理的なエンジンであるように見える。それともガソリン車の歴史が他の駆動機構で動く自動車を受け入れることができない社会構造・制度・常識に変えてしまったのだろうか。